傑作歴史ミステリー「指差す標識の事例」の魅力とは!?

指差す標識の事例

壮麗無比の歴史ミステリー「指差す標識の事例」が大傑作だと感じたので、個別の記事にしました。

1冊の小説に費やされた年月が22年、翻訳者が4人という贅沢な創りになっています。

小説に出てくる難しいであろう言葉を調べたので、物語をより楽しむための助力になれれば幸いです。

「指差す標識の事例」の時代背景

17世紀のイングランド

17世紀のイングランドは、スコットランドとの戦争やペスト(黒死病)の流行など、様々な出来事があり、激動の時代だったようです。

チャールズ1世は、国教をイングランド国境としようとします。

日本は世俗国家ですが、宗教国家としての礎が必要だったのかもしれません。

ヴェネチアやスペインなどヨーロッパの他国に比べると、まだ端の島々に過ぎず、弱小気味のイングランドだったそうです。

そして、ピューリタン(清教徒)を弾圧しました。この流れから王党派と議会派の対立が深まり、ピューリタン革命へと発展します。

 

大まかな年表

  • 1640年 スコットランドとの戦争でチャールズ1世が負ける
  • 1642年 イングランド内戦 ピューリタン革命(清教徒革命)
  • 1649年 群集の面前で国王(チャールズ1世)が処刑され、オリヴァー・クロムウェルの独裁が始まる。
  • 1658年 クロムウェルが死亡し、息子リチャードが第2代護国卿になるが器量がなく、軍が跡を継ぎ、王を呼び戻すことが検討される。
  • 1660年 王政復古 チャールズ2世が王に即位する
  • 1665年 ペスト(黒死病)の流行

 

王政復古とは!?

共和制や武家支配などによって支配の座を追われていた君主制が再び旧体制を復活させることを指す。

参照:Wikipediaより

17世紀のイングランドでは、ピューリタン(清教徒)革命でチャールズ1世が処刑され、その後のチャールズ2世が王に即位(戻る)箇所を言います。

 

オリヴァー・クロムウェルとは!?

オリヴァー・クロムウェルは、イングランドの政治家、軍人です。

ピューリタン(清教徒)革命で議会派の中心人物として鉄騎隊を指揮し、議会派を勝利に導きました。

1648年にチャールズ1世を処刑し、共和国を成立させました。

イングランド共和国の初代護国卿です。

オリバー・クロムウェルは、1500年代に宗教革命を行なったトマス・クロムウェルの子孫となります。

ヘンリー8世の側近として有名なトマス・クロムウェルとは別の人物です。

1663年に死に、政権は短命に終わります。

ただ、航海法や消費税の導入など、イギリスの近代化において貢献度も高かったのではないかと言われています。

 

航海法とは!?

航海法とは、イギリスが輸入する時に使用する船をイギリス船もしくは、輸入先の船に限定する法律のことを言います。

当時、イギリスの海運業は全く発展していませんでした。

航海法の背後に、当時、ヨーロッパ最大の海運国家だったオランダ船舶を排除する目的があったそうです。


「指差す標識の事例」を面白くしている要素!?

様々な要素が物語を面白くしているのではないかと思います。

王政復古期の不安定要素

王政復古期の激動の時代だからこそ、物語がより面白くなっているのではないでしょうか。

例えば、「イングランド国教とカトリック」「王党派と議会派の内通者(スパイ的な)こと」「王党派に反乱を企てる危険分子への危惧」など..

クロムウェル側の共和国政府とチャールズ側の王党派、その2つの組織間の内通者など、スパイ小説的要素も内包されていると感じました。

オックスフォードは、チャールズ1世時代の王党派の拠点でした。

「嘘の木」や「影を呑んだ少女」のフランシス・ハーディングによると、「王政復古期は、イングランド史の中でも1、2を争う激動の時代」とのことです。

 

多くのミステリー(謎)要素

「毒殺されるグローヴ教授の犯人は誰か!?」を軸とした殺人ミステリーに、

「ジャック・プレスコットの父を裏切り者扱いに陥れたのは誰で何故か!?」

という歴史ミステリーの2つの謎がメインとなっています。

ただ、それ以外にも多くの謎があり、

  • 「上巻の段階では、王党派の内通者(裏切り者)は誰か」
  • 「マルコ・ダ・コーラは、本当は何者か!?」
  • 「国をも揺るがすほどの書簡には何が書かれているのか!?」
  • 「サラ・ブランディの父親は誰か!?」
  • 「グローヴの助手を○○したのは誰か!?」

など多くの謎が、物語を面白くしている要素なのではないかと思われます。

 

実在した人物が多数登場

「指差す標識の事例」には、多くの実在人物が登場しています。

法学徒のジャック・プレスコット、幾何学教授のジョン・ウォリス、歴史学者のアントニー・ウッドは、いずれも史実に存在した人物とのことです。

クロムウェル政権の国務大臣ジョン・サーロウサミュエル・モーランドなども実在の人物となっています。

 

歴史、宗教、医学などの知識

物語に深みを与える要素が多いように感じました。

  •  歴史

17世紀のイングランドはもちろん、東地中海のクレタ島を巡るヴェネチア共和国の動きやオスマントルコの動きなども。(少しですが)

その時代の世界情勢も散述。

ジャック・プレスコットの父親を巡る歴史の話。

 

  •  宗教

グローヴ博士と神学者トマス・ケンの対立から神学の価値観など。

グローヴ博士と神学者のトマス・ケンとの聖職録を巡る対立は、宗教観の対立でもあると感じました。

ヴェネチアの医学徒コーラのカトリックとイングランドのプロテスタントなども。

魔女狩りや悪魔払い、占星術などは、クエーカー教徒が霊的体験を重んじる宗派ということも関連しているのではないかと思いました。

 

  •  医学

マルコ・ダ・コーラと友人ローワーの医学の話が内包しています。

輸血システムの発見(エピソードは物語上の設定ですが)など、今では当たり前のことも、時代を感じる記述となっています。

ボイルの科学(少しですが)なども。

 

↓↓  17世紀英国の海軍官僚サミュエル・ピープスが10年間に渡り、克明につけた日記。王政復古期の社会・文化・生活の貴重な史料。

顕微鏡や望遠鏡、輸血実験、空気の重量測定など、身分のある人がボイルやフックの行なう実験見学に押しかけた。新科学時代

 

馴染みのないワード!?

小説をより楽しむうえで、必要になる言葉を調べたので記載します。

ピューリタン(清教徒)

ピューリタンは、イングランド国教会の改革を唱えたプロテスタント(カルヴァン派)の大きなグループです。 日本語で清教徒と訳されます。

ピューリタン(清教徒)革命!?

ジェームズ1世は、カトリック的な側面を残すイングランド国教会の強化をします。

これに反対していたのが、カルヴァンの教えに忠実なピューリタンと呼ばれる人々でした。

チャールズ1世が即位すると、王権神授説を唱えて専制政治を強めます。

国内の宗教を国教会に統一しようと、ピューリタンを弾圧します。

1642年、国王を支持する王党派と議会を支持する議会派の対立が激化し、武力対立に至ります。

こうして、ピューリタン革命が勃発しました。

ピューリタン革命からの王政復古(動乱の時代)が物語の根幹

 

聖職録

カトリック教会において、教会職と結びついて教会財産の所領あるいは奉納物から一定の収益を得る権利のこと。およびその権利により得られる収入のこと。

参照:Wikipedia(ウィキペディア)より

「中世ヨーロッパにおいて聖職禄は教会職と分離され、封の1つとして世俗人に付与されていた」そうです。

上巻で、グローヴ博士と神学者トマス・ケンの対立の要素として度々、出てくる言葉です。

 

小教区

小教区(しょうきょうく、英語: parish、パリッシュ)は、監督制をとるキリスト教の諸教会において、教会行政の基本単位となる区域

参照:Wikipedia(ウィキペディア)より

「小教区」については、こちらのサイトにもわかりやすく書いてあります。

 

クエーカー教徒

ピューリタン革命の中で発生した宗派で、プロテスタントの一派であるキリスト友会に対する呼称。17世紀にイングランドで設立された宗教団体。

神秘体験にあって身を震わせる(quake)ことから、クエーカー(震える人)と俗称されるようになったそうです。

霊的体験を重んじるみたい

また、クエーカー教徒は笑いが罪とされているとのことです。

サラがクエーカー教徒の集まりに参加するシーンや悪魔祓いの話などに描かれています。

 

「指差す標識の事例」の【あらすじ&レビュー】

イーアン・ペアーズ(著) 5.0

指差す標識の事例

17世紀イングランドが舞台の歴史ミステリー

第12回 翻訳ミステリー大賞受賞

刊行までに22年の歳月を要し、それぞれの手記に合わせて翻訳者が4人という贅沢なつくりの小説です。

「1663年クロムウェル亡き後、王政復古によりチャールズ二世の統べるイングランド」そこで起こる毒殺事件を含め、医学、宗教、事件などの要素が内包された様々な歴史が語られる重厚な人間ドラマです。

「4人の信用できない語り手」のそれぞれの手記を読んで、全体像(真実)がわかってくる人間関係。

犯人探しよりも歴史記述など多くの出来事にページが割かれているので、ミステリ小説というよりは「ミステリ要素を含んだ歴史小説」という感じです。

 

個人的レビュー

「薔薇の名前」×「アガサクリスティ」という帯に惹かれて軽い気持ちで読み始めましたが、文句のつけようがなく大傑作でした。

単純に、個人的に歴史やミステリーが好きだということを除いても、文章が丁寧で語りかけるような(手記のため)小説が、文学としても完成度の高い1冊ではないかと感じました。指差す標識の事例

登場人物は、医師、神学者、化学者、歴史学者、法学徒など知識人ばかり。

物語の面白さだけでなく、医学の発展、神学者の価値観など、17世紀イングランドの考え方などが垣間見れます。

「殺人自体よりも歴史のミステリーの方が重要なのでは!?」という程、様々な要素を含んでいるように思います。

4人の手記(それぞれの視点)による構成の面白い部分だと思いました。

読み返してみると、見逃しがちなちょっとした記述に様々な要素が含まれていて、後からわかってくることも多く、さらに楽しめました。

上巻では、ニュー・カレッジでの晩餐のシーンなどは後から読み返して、構成が凄いなと思いました。

緻密なプロット

内容の意味を理解するため、調べながら読んでるうち、様々なことが勉強になりました。

下巻に入ると、これまでの情報を根底から覆されるような、思わぬ方向へ話が流れていきます。

第3の手記くらいから見えてくる緻密に繋がっている人間関係が面白かったです。

何度も振り返りながら読み返すと、より楽しめる小説かな!?と思います。

何より品のある知性を感じる語り。特に終盤にまさかの結末になり、読後感も良かったです。

文句なく星5つをつけたい1冊でした。貴重な読書体験だと感じました。

 

【17世紀頃のイングランド】がテーマの小説!?

17世紀のイングランドがテーマの小説をご紹介します。

「影を呑んだ少女」 フランシス・ハーディング(著)

カーネギー賞最終候補作の歴史ファンタジー

2017年の「嘘の木」で知られ、続編「カッコーの歌」も人気のイギリスのファンタジー作家フランシス・ハーディングの「影を呑んだ少女」も17世紀英国のピューリタン革命下が舞台になっています。

ハーディング翻訳の3冊目で、2020年発刊の比較的、新しい小説です。

 

「エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件」 ジョン・ディクスン・カー(著)

 古典推理小説の巨匠、ジョン・ディクスン・カーが17世紀イングランドで起きた「エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件」を絡めたミステリーです。

 

「火の柱」 ケン・フォレット(著)

16世紀中頃のイングランドが舞台となっています。

「大聖堂」で知られるケン・フォレットの小説で、ヨーロッパにおけるカトリックとプロテスタントの熾烈な構造関係がわかります。

 

「ウルフ・ホール」 ヒラリー・マンテル(著)

ブッカー賞・全米批評家協会賞受賞作

1520年代のイギリス、ロンドン。ヘンリー8世の側近だった「トマス・クロムウェル」の小説です。

オリヴァー・クロムウェルは、トマス・クロムウェルの妹の4代目の子孫にあたります。

ヘンリー8世以来、イングランドはカトリックと決別したそうです。

 

おわりに

同じような1人称語り手の小説に、トルコのノーベル賞作家オルハン・パムクの「わたしの名は赤」があります。

こちらも、イスラム細密画ミステリーの傑作なので、リンクしておきます。

 

「ミステリー小説おすすめ20冊」の記事も書いています。

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