広大なロシアの極東にも様々な都市、地域があります。
軍港として有名なウラジオストク、ハバロフスク、バイカル湖畔のイルクーツク、旧樺太も含まれるサハリン、カムチャッカ半島など。
そんな極東ロシアが舞台になっている小説をまとめました。
カムチャッカ半島が舞台の小説
「消失の惑星(ほし)」 ジュリア・フィリップス(著)
2022年(第2回)みんなのつぶやき文学賞【海外編】第1位
全米図書賞最終候補作
無さそうで全く無かったカムチャッカ半島が舞台の貴重な1冊です。
カムチャッカの美しい情景と風土、風習、文化が盛り込まれた小説
13章からなるカムチャッカ半島に生きるそれぞれの人々の物語。
ウラジオストクが舞台の小説
「女性外交官ロシア特命SARA」 麻生 幾(著)
ロシアのズベズダ事業(世界大戦で何百とつくった原子力潜水艦解体)を絡めたサスペンス。
ウラジオストクの描写が良かったです。
原子力問題も原発だけを見ていたんでは駄目なんだと感じました。
「〈ミリオンカ〉の女 うらじおすとく花暦」 高城 高
悪漢時代小説(ピカレスクロマン)
日本から最も近いヨーロッパとして知られるウラジオストクが舞台の小説。
ロシア人・中国人・朝鮮人・日本人の雑居地だった明治時代の港町ウラジオストクの描写
サハリンが舞台の小説
「熱源」 川越 宗一(著)
[第162回] 直木賞 受賞作
樺太(サハリン)のアイヌをテーマにした歴史大作
樺太に生まれたアイヌのヤヨマネクフ。集団移住の後、天然痘やコレラで妻や友人達を亡くし、再び樺太に戻ることを目指す。リトアニアに生まれたブロニスワフ・ピウスツキは、ロシアで皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。。文明を押し付けられた2人は樺太で出会い!?-
樺太で生きるアイヌの風俗や風土などが描かれている1冊。
「氷結の森」 熊谷 達也(著)
直木賞・山本賞ダブル受賞の「邂逅の森」に連なる3部作の完結編
樺太から間宮海峡を越え極東ロシアへ。
過酷な運命に立ち向かう男の長編冒険小説
「サハリン島」 エドゥアルド・ヴェルキン(著)
ここ10年で最高のロシアSF小説との声もあります。
サハリン(北緯50度線南部:旧樺太含む)が舞台の小説です。
「サハリン島」 チェーホフ(著)
ロシア文学を代表する劇作家によるサハリンの現地調査報告書
チェーホフは短編を多く残した小説家です。
日露戦争前の1890年、流刑地とされていたサハリンに滞在し記録を残しました。
「樺太脱獄記」 ウラジミール・コロレンコ(著)
古典的な名作になりますが、樺太(サハリン)が舞台となります。
Kindle(キンドル)で無料で読めるようになっています。
「サハリン脱走列車」 辻 真先(著)
第二次大戦最後の戦場となった樺太の終戦間際の事情を絡めたミステリ
作家「辻真先」氏は、2019年に87歳で日本ミステリー文学大賞を受賞されました。
「このミステリがすごい!2021年版」では、「たかが殺人じゃないか」で国内部門第1位になっています。
内容レビュー
「消失の惑星(ほし)」 ジュリア・フィリップス(著)
レビュー
少女失踪という大きなテーマを軸にしているけど、ミステリー(謎解き)ではなく、それぞれの物語との関連性も高くはありません。
どちらかというと、カムチャッカ半島に住む人々のそれぞれの物語で純文学のような普通の小説という感じでした。
ただ、カムチャッカ半島を舞台にした貴重な小説という点、民族、文化、風土などカムチャッカをふんだんに味わえる内容が良かったです。
トナカイの肉を食生活に摂り入れていることやツンドラ、山脈で実際は繋がってる北部にいけない陸の孤島状態の地理、白人(スラヴ系)と先住民族との人種の関係性など。
「あとがき」なども含め、北部に暮らす先住民族(エウェン人、チュクチ人、コリヤーク人、アリュート人)とソ連の関係などもかいま見れます。
ペトロハヴロフスク・カムチャツキーよりさらに北のエッソやパラナなどの秘境出身の人の生活や事情、現地の声を聞けるような小説でした。
「サハリン脱走列車」 辻 真先(著)
レビュー
戦時中のサハリンや小樽(北海道北部)の状況もわかり、面白かったです。
アメリカを牽制しながらソ連に袋叩きにされる樺太は、玉音放送の8月15日の終戦から1週間遅れで終戦を迎えます。
この間の日本の中で取り残された樺太(サハリン)置かれた状況や人々の様子なども
ノンフィクション本
「鉄路の果てに」 清水 潔(著)
シベリア鉄道でバイカル湖畔のイルクーツクを最終的に目指すノンフィクション本。
鉄道連隊だった父親のメモにあった戦時中に辿った鉄道の行程に沿って、著者が旅をします。
サハリン
小説ではなくノンフィクションの本ですが、「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」の最終候補作になっている「サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する」もサハリンが舞台になっています。
樺太(サハリン)を見つけた間宮林蔵
19世紀初頭、間宮林蔵は樺太調査に挑み、樺太が島であることを確認。
「鉄路の果てに」内容レビュー
「鉄路の果てに」 清水 潔(著)
千葉県の津田沼~東海道線、山陽線を通り、下関~航路で朝鮮半島の韓国の釜山~ソウル(当時の京城)まで北上、そこからさらに北上し、ウラジオストクを起点としたシベリア鉄道で中国を通り(満州国も)バイカル湖畔のイルクーツクまで。
レビュー
ジャーナリストらしく近代史の情報が多く、近代戦争史と紀行文が6-4の割合くらいで、ためになる本でした。
ノンフィクション本ですが、旅行記本のような楽しさもあります。
満鉄、シベリア鉄道、東清鉄道を通して、第2次大戦だけでなく、日清、日露戦争、大津事件など、様々な日本の辿ってきた歴史が勉強になります。
1つ1つの史実は簡潔で短いので、掘り下げているわけではありませんが、鉄道を通して幅広く戦時中の近代史が書かれています。
朝鮮半島や遼東半島の利権など、中国やロシアとの関係から戦争に向かう日本の近代史がおさらいできます。
例えば、ハルピンでは、伊藤博文の暗殺や731部隊も出てきます。
シベリア鉄道の敷設と近代史の関わりが伺える部分を1箇所だけ抜粋。
建設が始まったシベリア鉄道に対し、日本国内で様々な声があがった。~
中でも「陸軍の父」と呼ばれ、総理大臣を二期務めた山縣有朋(やまがたありとも)は何度もその脅威を説いた。
~
当時は、朝鮮半島を日本の防衛線と考えており、鉄道が完成すればその朝鮮が侵略される危険を主張していた。そんな脅威論が飛び交う中で「大津事件」が起きた。
参照:清水潔(著)「鉄路の果てに」
ノンフィクションで戦争史などの情報が多いうえ、旅本としてもおすすめだと思います。